【0】難聴

怪異よりも体験者達のキャラクターの方が印象に残ってしまった。
どうしても指輪の出所を語る上で特に彼氏の性格を書いておく必要性があるので、削るということはできないだろう。
性格を事細かに書く書かないというよりも、怪異そのものの扱いが非常に適当だと思うのである。
怪異の肝に入る前に“耳が聞こえにくくなった”ことが書かれており、この後の“耳に指を突っ込まれる”現象に推移するのだが、その怪異と指輪の繋がりがかなり希薄に感じる。
原因は指輪を放置した後、体験者の難聴が治ったのかどうかが一切書かれていない点である。
さらに突っ込むと、指輪を拾った場所が霊園の“近く”のポストの上という、何か中途半端な場所である。
強く否定することは出来ないが、もしかすると指輪と難聴の怪異との間には実は因果関係が成立していないと考えてもおかしくないのである。
そのように邪推することも可能な指輪に焦点を合わせて最後を締めてしまったために、どうも居心地が悪い雰囲気が出てしまったように思う。
体験者は指輪が原因で難聴になったと信じ込んでいる様子だが、本当はもっと別の原因があったのではないだろうか。
ケチな彼氏である。
指輪以外にももっとたくさんの物を拾っている可能性があるだろう。
その中に彼に取り憑いて怪異を起こすものが存在していると見た方が、自然な流れであるように感じるのである。
結局この作品は登場人物や指輪といった、怪異そのもの以外の部分だけがクローズアップされてしまった感が強い。
難聴の原因と結果をきちんと書くべきだったと思うし、それが正統な怪談話としてあるべき形だったように思う。