【−1】果物

とにかくディテールが不自然な削り方になっていて、それが非常に気になってしまった。
まず果物の種類が最後まで明らかになっていない。
柿か蜜柑かの区別ができない子供が終戦直後にいる訳がないと思うし(昔の子供の方がそういう自然の恵みに対して知識豊富であったと聞く)、木登り上手な子供が柿の木と蜜柑の木の区別ができないのもおかしい。
多分、最初から異様な形をした果物という認識が体験者にあったのをわざと隠そうとしているのだろうが、ここまで果物に執着する体験者の様子を書きながら、一方でその重要なキーワードを明かさないのは不自然である。
そして怪異そのものの描写が非常にムラがある書き方になっている。
あやかしの姿が細かく書かれているようで、実際にはどのようにぶら下がっていたのか、またなぜ果物と見間違えたのかなど、興味をそそる部分での説明描写が欠けている。
意地悪く言えば、きちんと取材できていないのではと思わせるほど、重要部分の欠落が顕著である。
また最後の“禁忌”についても思わせぶり先行で、結局怪異そのものとの関連性が明瞭でない。
想像すればいくらでも恐ろしいことが浮かんでくるのは確かだが、作品としてまとまった内容による余韻作りとは明らかに異なる手法である。
体験者から聞いた内容をそのまま取って付けただけという印象が強いし、読みようによっては唐突でこじつけめいたまとめ方にも見える。
怪異の肝はあくまで木にぶら下がった小さな女であり、その部分だけをしっかりと書き込んだ内容にすれば、非常に不思議且つ気味の悪い話に仕上がったのではないだろうか。
書き方に技量の良さを感じるだけに、何か奥歯に物が挟まったようなすっきりしないディテールの提示にしっくりとこないもどかしさを覚えてしまった。
整合性が破綻するギリギリのラインあたりといったところか。