【+3】見えていない目で

最初に断っておくが、私自身、この作品の内容は“狭義の怪異”ではないと思っている。
死の間際に過去の記憶が鮮明に甦ってきたのを錯乱状態で認知した状況というのが、本当のところなのだと思う。
だから、「怪異ではない」と言い切ってしまってもおかしくないとも感じるところである。
しかしながら祖父にとってはこれはまさしく実体験の怪異そのものであったとしか思えないのである。
死んだ後も祖父の目が閉じられなかったという事実。
この事実が厳然としてある限り、やはりそこに祖父が認知したものが脳内記憶であるかどうかの確認を超越する“何か”を感じることが必要だろう。
また祖父の凄まじいばかりの妄執を作者が書ききることによって、この作品は“怪談”として取り上げることができる高みにまで仕上がったと思う。
言い方は悪いが、この祖父の鬼気迫る死に様そのものが恐怖を煽るものとして描かれている感もなきにしもあらずである。
もし作者がこの事実を淡々とした説明調で書いていたならば、間違いなくマイナス評価を下していたであろう。
講評によっては「怪異がない」と断じることも可能であるし、そのような評が出てきても不思議ではない。
ただ個人的には、人間の業の持つ哀しみと言うべきものを表すのも怪談の妙であると思うので、高く評価したいと思う。