【−3】猫が見えるもの

怪異の内容以前の問題として、文体があまりにも痛すぎる。
生理的に受け付けにくいというか、多分声になって聞いている分にはまだ我慢できるが、字面になってしまうとどうしようもなく読む気が失せる語調である。
“実話怪談”というレッテルが貼られているからといって、全てを完全再現させる必要はないと思う。
まずは読者が読みやすい環境を作る方が先決である。
このような録音データをそのまま言葉化させる行為は一見リアルであるが、読者に読ませる“怪談”という作品作りの観点から言えば、完全な失態以外の何ものでもないだろう。
さらに怪異の内容であるが、文体が読みづらいのも相まって、非常に把握しにくいと思った。
そして恐怖感というものも、結局猫がビビって失禁するという部分に集約されてしまい、間接的な表現のために興を削がれてしまった。
体験者が語るように、動物の考えていることを人間が理解するのは難しい。
この言葉が、そっくりそのままこの作品の核心になっていると言えるだろう。
要は、猫のリアクションを見てもどれだけ恐ろしいことが生じているのか、読者は薄ぼんやりとしか分からないのである。
しかも鎧武者などというあやかしが登場しているにもかかわらず、ゴキブリやムカデと対比してしまっており、その点でもどこまで怪異から恐怖を抽出するかという作業において、完全なミスをしてしまっている。
どちらかというと実験的な匂いのする作品であるが、外したと言っても間違いないだろう。