【−2】フネさん

この作品も既成のイメージを援用して描写を展開するパターンであるが、結局はそれが怪異の肝の足を引っ張る結果となってしまった。
今回援用される既成イメージはあやかしの容姿ではなく、一般的な人物像であるので、怪異や恐怖感の創出を他者に依存する最悪のパターンとは一線を画すると思う。
だから“フネさん”を描写の手段とするのは、極端なマイナス要素とは考えない。
だが、タイトルにまで掲げ、この短い文章中で8回も連呼する作者の姿勢には疑問を持つ。
“割烹着に緑のゴム手袋”という異様な風体をきちんと描写しているにもかかわらず、なぜ“フネさん”という既存のアニメキャラクターに依存するのか、全く理由が分からない。
しかもこのキャラクターがほのぼのとした“癒し系”であるが故に、異様な容姿をしながら違和感を感じざるを得ない状況に陥ってしまった。
つまりこの作品は怪異を狙ったものなのか、それとももっと別のものを意図した内容なのか、悪い意味で中途半端な作りになっているという印象が強いのである。
既成のイメージは共通認識が確立しているために、非常に強烈な“刷り込み作用”がある。
たった一言で、ほとんど体を成さない存在の輪郭を形作ることが出来るほどの力がある。
だが、そのイメージが過剰に強調されると、作者自身がコントロールできないほど固定化された存在になってしまう。
この作品では、この過剰な表記によってあやかしの持つ異様さが完全に殺されてしまったと判断する。
さらに加えて、母親の証言によってあやかしの“緑の手袋”の由来も判明してしまい、面白くも何ともない作品に堕してしまった感が強い。
とりあえず作者の意図が見えてこない作品ということである。