【+3】のんべ魂

ストーリーとしてはまっすぐ一直線という感じで、何のひねりもなく、最後のオチまで見通せるレベルの作品である。
普通の怪談話であれば、決して手の内を見せずに最後に一気に想像のつかない結末を提示する方が高品質であるという認識である。
だがこの作品の場合、この最後まで揺るぎなく進む流れであるからこそ安心して読めるというスタイルに評点を高くした。
この作品は怪異を表しているが、決して恐怖などで読者を驚愕させることに主眼がある訳ではない。
むしろ亡くなった祖父に対する愛情というべき感情を前面に押し出し、不思議だけど微笑ましい状景を作り出すことがメインになっている。
だから気の利いた捻りや凝った結末などは不必要であり、ほのぼのとした雰囲気が文章の端々から感じられることにこそ価値があると判断した。
生前の祖父が如何に周囲から愛され、そしてその死後に起こす怪異までが祖父らしいと言われ続けること。
これを読者がこの作品から汲み取ることができれば、作者としては自らの意図が伝わったと感じるであろうし、この作品は成功であったと胸を張って言えるであろう。
個人的な感想であるが、自分も死んだらこんな幽霊になって出てきたいと思った。
自称酒飲みをそういう気持ちにさせるのだから、素晴らしい作品であると言っても良いだろう。
ちなみに怪異であるが、コップに入った酒が短時間で減るという話は幾例かあるが、封をした一升瓶の中身が減るという事例は中岡俊哉氏のレポートで広島の某寺で起こったとするものしか覚えがない。
意外と貴重な怪異でもあるだろう。