【−1】腕試し

一般の人間がなかなか認知できない能力を持っているという人に出くわすと、やたらその人の能力を試してみたくなるものである。
怪談で言えば“見える”人がどれだけ見えているのか、こういう世界にのめり込んでいる連中ほどそれを客観的に“実験”してみたくなる。
かく言う私も、さほど有名ではない心霊スポットについてそれとなく聞いてみたら、噂になっていた内容と全く同じ霊体がいると言われて驚いたことがある。
だがその話を“実話怪談”として文章に起こしてみようとは思わない。
あくまで話のネタであって、文章化した作品にまで昇華できないと考えているからである。
この種の話は単なる体験談ではなく、信憑性を問われる“実験”という側面が強いため、ストーリー性のある話にまとめてしまうとどうしても支持を受けにくい。
最初から作為的にストーリーが決められており、まさにその通りに結果が進むしかないからである(まさか“実験”が失敗したケースを“怪談話”として出すような愚挙はしないだろう)。
結局、バラエティー番組で科学的実験検証が捏造あるいは不適切と糾弾されているのと同じ印象を受けてしまうのである。
しかもこの作品で取り上げているのが、途轍もなくビッグネームであり、さらに非公開の写真という非常に判定が微妙なもので“実験”がなされている。
体験者の心情も理解できるし、実際にその人の能力をまざまざと見せつけられた時の興奮は並のものではないことも承知している。
しかしそれを文章として公開しようと思えば、単に体験談では済まされない、誰もが納得しうるデータの提示が必要だという意見である。
その部分での引っかかりがある以上、評は低くせざるを得なかった。