【+3】暗黙の了解

霊と人間がコミュニケーションが取れるのかという問題があるが、普段は見えるはずもない人が特定の霊だけ見える場合はいわゆる“波長が合っている”ということで、人間同士のように双方向にスムーズにはいかないにせよコミュニケーションは可能であるという見解である。
この作品のように視覚的なレベルまで相手を意識できるということは、意図的にコミュニケートしようとすればできると思う。
だから、体験者の「勝手な思い込み」はあながち見当外れなものではなかったのではないだろうか。
むしろ問題はお互いの解釈の相違である。
体験者は“自分がいる時は出るな”であったが、霊からすれば“イレギュラーはやめてくれ”ということだったのであろう。
この作品にあるような“人と霊が長らく穏便に同居していたのが破綻する”体験談を分析すると、きっかけは人の方が休暇や病気などで“普段不在であると時間帯に部屋にいる”ことが圧倒的である。
人からすれば「自分の部屋だから」という理由から気にしないのだろうが、霊からすればそれは“約束違反”の何ものでもないのであろう。
相手の方から話を持ちかけてきておいて先に約束を破られれば、心情的に結構ピュアな霊にとっては絶対に許すことのできないことに違いない。
この作品でも休日でたまたま部屋にいた時に怪異が発生している。
それを考えると、この作品も妙に納得のいくものになってくる。
問題のカミソリであるが、体験者が想像しているような自殺の手段だったのかは、正直この怪異だけでは判断しきれないだろう。
少なくとも霊が警告のために人間に危害を加えようと試みたことは確かであると思うが。
それ故、このケースでは自殺まで示唆する必要はなかっただろう。
ネタの希少性からいってなかなか面白く、またすっきりとした文章であったので、水準以上の作品であると感じた。