【+2】悪霊

冒頭から滔々と書かれている【悪霊論】は個人的に非常に近しい理論展開であり、こういう考え方をしている“見える人”がいることは、なかなか心強いと感じた。
ただしこの理論と怪談話は別物である。
前半の論説は全面的に賛意を表するが、後半から始まる怪談話に関してはあまり好印象は持てなかった。
やはり前半部分とのギャップの大きさが一番の原因である。
“見える人”であるならば、概念のみによる理論構築ではなく、実際の体験による強力な実証がなされるとばかり期待していたのであるが、それに応えられるだけの内容ではなかったということである。
もし仮に前半の理論説明がなければ、それはそれなりに読めただろうし、また違った読後感を持ったことだろう。
やはり冒頭であれだけの堂々と論陣を張ったならば、それに見合うだけの体験談を書かなければならないだろうし、それが出来なければむしろ理論の提出を敬遠した方がよかったと思う。
それともう一点気になるのは、母親の意味ありげな言葉。
これも最初の理論説明とは無関係な内容であり、事実として語られてはいても、前半との関係から考えるとこれで話を締めることは読者にとって不可解な謎を残すだけである。
構成の方法論でミスを犯してしまったというのが、正直な感想である。
ただし個人的には、こういう理論と実践による展開を実見することのできる作品というのは、ある種の理想体であることは確かである。
(どうしても“見える人”の話は毀誉褒貶が多いので、一概にこれが最高だというスタイルはないのかもしれないが)