【+3】贄

いつも悩むところなのであるが、明らかに人間が人工的に為した怪異を“実話怪談”の範疇に入れるべきなのかどうなのか。
まさにこの作品がその判断の分かれ目に当たる。
結論から言うと、個人的には<許容範囲>であるということになる。
犬を宙吊りにして生け贄とすること自体は、間違いなく土地の人間によるものであると判断できる。
だがこれが個人の慣習に帰するものではなく、神社という土地を鎮護する存在のために行われている点が非常にポイントになる。
仮に特定の人物の個人的慣習であれば、この行為は個人の嗜好であり、許容範囲を逸脱すると思う。
いわゆる動物虐待、あるいは嗜虐的行為という個人の資質に関係する問題に集約できるからである。
だがこれが神社の祭祀の一環として行われる内容であれば、行為自体が人の手によるものであっても、その目的の中に人智を超越した何ものかの存在が横たわっている可能性が高い。
そのような風習が過去のものではなく現代でも生き残っていたとすれば、祀られている実体の存在にかかわらず、怪異として認識すべきであると考える。
特にこの作品のように、タブーとして秘匿されているものであればなおさらである。
呪術的秘儀・秘法に関連するとおぼしき物証について、それを目撃した内容を“実話怪談”とみなすことが可能であれば(具体的にいえば、丑の刻参りや呪いの文言)、この作品の内容もそれに類したものとして受け入れるべきだと思う。
とりあえず個人的解釈は以上であるが、作品の内容についても触れておく。
この作品で恐怖を感じるところは、悪魔の所業にも似た行為をしている人間が体験者のすぐそばにいるという想像である。
つまり体験者の祖父をはじめ、この土地に住んでいる者が犬を宙吊りにしているという暗示である。
ただこれについてはもっと厭な雰囲気で書くことも可能であると思うし、その方が作品としての価値も上がったと思う。
いずれにせよ超常現象はないが、多くの人を納得させる“怪談”にすることが出来る内容であるだろう。