【+4】流し

情緒の隅々にまで体験者の思いが染み通る、非常にウエットな作品である。
怪異らしい怪異がないための減点はあるものの、それでも並の好評価では済ませられないレベルの高さである。
特に秀逸と思わせるのは、体験者の成長に合わせるかのように語られる【流し】の真相である。
体験者にとって【流し】という存在がどのようなものなのかが語られるにつれ、彼女が無垢な子供から少女、そして“女”へと変貌していく様子が的確に描かれていく。
それと同時に、禁忌の地である【流し】の正体が明らかになっていく。
これを読んでいて、大人になることとは“禁忌”を知ることなのかもしれない、とふと思った。
大仰に言えば、人生の暗黒面を知っていくことが大人へのステップだということ。
ここで書かれている内容は女性にとっての性(さが)と言うべきものであるが、それをオーバーラップして人間全てに関わる“業”の深さを感じてしまった。
やはりそういう負の感情に訴えかける部分を持ち、かつそれを想起させる存在が人智を超えたものである以上、この話は怪談の範疇に属する作品であると言っていいだろう。
文章については、作品の持つ雰囲気を見事なまでに再現させることに成功しており、文句の付けようがない。
作者が意図的に文体を変えて書いているとすれば、まさに怪異の本質の的を射たと言えるだろう。
総合的に見て、個人的には、大会屈指の傑作だと思う。