【+2】手首

掌編であり、内容としても取るに足らない、よくあるシチュエーションである。
だが、痴漢撃退よろしく霊体の手をひっ掴んだところ、そしてその掴んだ手に温もりがあったというこの2つのポイントの希少性は見逃せない。
特に生身の人間のような霊体の手というのはあまり聞かない。
あるとしても肉親など、体験者に対して間違いなく親愛の情を持つ存在の場合のみであると記憶する。
だからこのようなタイプの霊体にはあり得ないというのが、驚きになっている。
あるいは死霊ではなく生霊がストーカー行為に及んだのであろうか。
いずれにせよ、この現象は説明がつかないものであり、それだけで十分マニアを唸らせるレベルのものであると言えるだろう。
文章については、この珍しい怪異を必要最小限で語るという感じであり、シンプルではあるが怪異を抽出する文体としては適切な表現であったと思う。
希少性の部分とそれを殺さない文体、それさえあれば十分評価できる作品に仕上がるという好例であるだろう。