【−1】ぎっしり

完全に怪異の肝にする場面が判っていながら、見事にそこで空振りをしてしまった感が強い。
多くの方の指摘がある通り、この怪異の肝は押入の中に“ぎっしり”とある顔なのであるが、“ぎっしり”と言われても一体どのような状態でつまっているのか、そのあたりの状況が全く描写されていない。
擬音語・擬態語は、日本語の中でも非常に便利な言葉であると思っている。
「雨がザーザー降る」と書けば、殆どの読者はどのぐらいの強さで降っているかおおよその見当がつくし、ほぼ全員が似たような状況を想起してくれる。
だがこのような言葉に頼ってばかりいると、書き手としての修練は手抜きになる。
“ザーザー”の代わりに具体的な風景や状況を言葉で表すことで、雨が強く降っていることを読者に知らすこと、これが【描写】の原点である。
あくまで個人的な意見であるが、もし描写力を急速に付けたいと思うならば、擬音語・擬態語を一切使わずに文章を書く訓練をすべきである。
結局、最も肝心な部分で擬態語を使って具象性に欠ける情景しか描ききれなかった分、この作品は恐怖に直結する怪異を提示できず、そして希少性があると想像に難くない現象を世に出すことが出来なかったと言えるだろう。
文体の硬さからまだビギナーのように思うが、敢えて厳しい言葉を書かせていただいた。