【+3】貸し切り

とうとう最後まで怪異自体の正体が語られることもなく終わるという、なかなか巧妙な構成を持つ作品である。
単に怪異が書かれていないのではなく、輪郭だけを丁寧になぞっているので良い意味でのイライラが募り、それが読者の想像力を大いに刺激している。
子分が恐れおののいた怪異の正体は一体何だったのだろうか。
他の同乗者もその路上を歩く運転手の姿を見ているのだから、決して子分一人の幻覚ではない。
この半分だけ怪異を目撃している証言者という微妙な立場であるから、この怪談話は成立しているのであり、作者はその効果を存分に活用しているように見える(これがもし子分にしか見えないようなあやかしによる怪異であれば、間違いなく一人称主観だけの“トンデモ怪談”になっていただろう)。
ただし文章が饒舌すぎ。
パターンとしては少々説明過多になるのはやむを得ないと思うのであるが、ここまで書く必要があったのかと言われれば、やはり無用の情報が多いと思うし、怪異の展開部分でも各登場人物に関する描写やセリフが必要以上に多いと突っ込まざるを得ないだろう。
この圧倒的な文章のために、肝心の怪異に関する暗示の部分までもが埋没してしまった感が強い。
タクシーで西日本へ行くところから書いていればまだストレスなく読めたかもしれないが、とにかく怪異に関する記述とのバランスをよく考えないと、特にビギナーには不親切な作品で終わってしまうだろう。