【−1】酔いどれ奇譚

酔っぱらっている最中の怪異というのは、夢ネタ同様、信憑性に関する保証を作者が維持できるかに内容がかかっているといっても過言ではない。
作者はオチの部分にインパクトをつけるためにいきなり噛み跡を持ってきたのであるが、この物理的証拠が却って胡散臭さを助長してしまっているように感じた。
つまりあやかしが噛んだという決定的な根拠が示されていないためである。
もしこれがしらふのシチュエーションであれば、もう少し説得力があったのかもしれない。
だが噛まれた回想場面が全く書かれていないため、また噛まれた場所が“腕”ということもあって、酔った勢いで自分で噛み付いてしまった可能性が捨てきれないのである。
例えばその噛み跡が本人の口とは比べものにならないほど大きいとかいう、どう考えてもあり得ない証拠があればよかったのだが。
以上のような疑念が残る限り、この作品に対する評はどうしてもマイナスにならざるを得ないということである。
酔っぱらうという記憶が曖昧な時間帯に起こった怪異を提示する場合、通常よりも慎重に客観的な物証というものを示さないといけないということである。