【+5】境涯

作者が狙ったのか、あるいは中の人が狙ったのか、何かそういう意図を超越して「怪談の神様はいるのだな」とこの作品を読みながら思っている。
次々と謎深い怪異が有機的に絡みながら、さらに深遠な闇を作り出す。
その暗黙の世襲の中で、自らの宿命を悟りそして継承していく一族。
日本的因襲を引きずっている重厚な怪異は、まさに圧巻の一言である。
またそのウエット気味の内容を受け止めて、丹念且つ正確に描写する文体も非常に作品本位と言うべき筆遣いであると思った。
何もかもが一つの怪談話を成立させるために必要なパーツとなっており、見事なぐらいに洗練されていると言うべきだろう。
完成された大ネタ怪談であり、私が講評するまでもないというのが正直な感想である。
豪華な料理がそこにあるのに、隅をつついて箸を舐めるのは野暮というもの。
黙って読めば、この作品の価値は自ずと解るというものである。
総合的に判断して、今大会最上の一作であろう。