No.20

大会前期にわたり断続的に13作品を応募している。
この作者の場合、最も注目すべきは量ではなく質である。
一話あたりの得点(ボーナスなし)が50点を超え、いわゆる命中率ではトップの成績を誇っている。
しかもラインナップを見ると、作品の形式・内容の幅が広いという印象である。
強烈なオチを付ける『ごす』、下ネタ怪談の良作『自粛』、不条理怪談の見本『念押し』、情念ドロドロの『共依存』、民話調の『ぐぐぐっ、びょーん』、実録ルポ風の『賽銭』、ホラー小説色の濃い『廃院を巡る不条理』、そしてお題物の成功作『カミ 二題』。
作者が意識的に題材や様式に変化をつけた作品を書こうと自ら課題を提示し、それに取り組んでいるという感が強い。
取材したネタを厳選し、それに磨きを掛け(あるいは実験的な工夫を施し)、この大会の場に公開していると考えるべきであろう。
だから最初から量ではなく質で勝負しており、見事に読者を魅了することに成功したと言えるだろう。
単著の作者を推挙するという目的が今大会の中心である以上、この作者のように厳選作のみを提示するというのは戦略的にありだと思うし、それを可能にさせた筆力は大したものである(実力がなければ質・量共に凡庸の一言で切り捨てられる運命にあるわけであるし)。
もしかすると初めから13という作品数にこだわった可能性すら感じさせる、何かこの大会に期するところあって参加したという目的意識の高さが見て取れる作者である。