No.36

3月に3作品を一度に応募の様子。
3作同時に読んでみると、人物描写は結構いけるが、場景描写がそれについてこれていないという印象を持った。
人物の心理的な動きについては、『年末の決意』で深読み講評をさせていただいたほど、言外にまで登場人物の気持ちが滲み出てくるような雰囲気があったと思う。
ところがなぜか状況説明になると舌足らずで、読みながらかなり想像力を働かさないとイメージが湧かないという場面が往々にしてあった。
全体的に“散文詩”的というべき、感性重視の作品なのかもしれないと思った。
作者にとってのポイントは怪異の事実ではなく、体験者の心情の表現にあったのではないかという推測である。
つまり“あったること”としての怪異を客観的に記録することに主眼があるのではなく、怪異に遭遇した人物の感情や心理の動きに焦点が合わせられているような印象なのである。
そういう観点に立ってこの作者の作品を見ると、思いのほか点数が伸びていないのも仕方ないのかもしれない。
ただ作品数が少ないので、どういった傾向を持つ作者なのかは推測の域を出ないのも確かである。
とにかく従来の怪談の概念だけでは評価が難しいということである。