No.42

公開当初から最終まで断続的に9作の応募である。
この作者の場合、初回の『ともぐい』で袋叩きにあって、却ってそれがプラスに作用していると言える(講評者としてもホッとするところだ)。
作風は潔いぐらい徹底的に饒舌体にこだわる。
しかも『ともぐい』で見せたように、あれだけのドタバタで破綻なく書き進めるだけの筆力もある。
怪異の本質を見極めて融通無碍にスタイルを変えて書くことも出来るのだろうが、敢えて最後の最後まで自分の型にこだわり続ける。
怪異を全て自分のスタイルに引っ張り込むというやり方は、個人的に思い描く理想の怪談の対極にあるわけであるが、それなりの実力があるが故に魅力的であることは確かだ。
『じぞう』などは見事なまでにスタイルに適したネタであったために、あれだけ爆発的な好評価を得たと言っても過言ではない。
だが確率的には、ここぞという場面でそれが足枷になっていることが多いような気もする。
例えば『直立』や『やしろ』などはかなりの大ネタといっても良いのであるが、饒舌なストーリー(しかも語り口が軽い)のおかげで恐怖や不思議という部分のインパクトが削がれてしまっている。
(ある意味『ともぐい』であれだけ叩かれながらも懲りずにやってしまう因業ぶりである)
読者によって好みがはっきりと分かれるタイプの作者であると思うが、ネタを引き当てる力、基礎的な文章技術を会得している実力は侮れないものがあると言えるだろう。