No.44

2月から5月にかけて12作品の応募があった。
同定された作品を通読すると全体的に佳作が多く、良いものを持っている作者という印象が残る。
特に怪異の本質を見極めてきちんと文章を書こうとする姿勢が見え、それが成功しているケースが多いと思う。
しかしこの作者の難点は、その文章を書くところでの筆さばきにある。
概して評価の低い作品を見ると、その傾向が強いことが判る。
例えば『あたしの』『狐の嫁入り』のように整合性に欠けるような記述で怪異自体に疑念を抱かせる部分があったり、『日蝕』『ちどり足すくみ足』のように過剰なまでに書き込まれた表記で怪異の具象性が損なわれる部分があったりする。
作者本人が文章をコントロールして書けずに、文が暴走してしまっているように感じる。
思うに、この作者の場合、文章を書く技術を向上させている途上にあるのだろう。
公園デビュー』での複数登場人物の書き分けや、『五里霧中』での登場人物の心理描写あたりはなかなかしっかりとした書き方であるし、酷評された作品の文章レベルとは格段の差があると言える。
紋切り型のアドバイスを出すならば、まずできた文章を時間をおいて声を出して読む、あるいは投稿前に第三者を交えて読んでもらうなど、冷静になって読み返す作業が必要である。
文章が暴走していると思われる場合、書き手が調子よく書きすぎてしまっていることがほとんどだからである。
熱に浮かされて書く作品は時々とんでもない傑作を生み出すが、コンスタントに実力を発揮することはできないのである。