No.47

大会を通して満遍なく44作品、最多投稿者である。
また得点も1000点オーバーであるから、今大会の優等生の一人であることは誰もが認めるところである。
作者同定で作品を一覧して思ったことは、作者の取材力の凄さである。
特に神仏系の奇譚については他の追随を許さないといった感があり、また上位にランクインされているものも多い。
単に数をこなしただけではなく、かなり多数の体験者から情報を得て作品を仕上げている点が非常にすばらしいと思う。
また取材能力の高さと同時に、文章能力も一日の長があると言える。
『蔵の中』は名作怪談と比しても遜色のない出来であるし、『袖引き』『鳥居』『浜辺』あたりの重厚な大ネタも印象深い。
まさに怪談作者として最も重要な要素で猛烈なパワーを発揮できた作者である。
だが手放しの評価ばかりではない。
この作者には他の作者とはまた違った部分で問題点がある。
同定された作品を見ていると、かなり評点の低いものが並んでいる。
これらの作品を分析すると、その原因には2つの流れがある。
一つは文章面で“奇を衒う”ことが多いこと。
実話怪談は極論すれば“あったること”さえきちんとかかれてあれば作品として成立できる。
それは逆から言えば、文章における“作者の個性”が薄い方がはまりやすいという意味でもある。
(昨年の大会覇者の二人が最初に受けた試練が互いの個性を混ぜ合わせること、すなわち文章スタイルの均質化であったことを考えると、あながち誤った発想ではないと思う)
ところがこの作者は、文章技術で小粒なネタをカバーしようとして怪異の本質と関係のないレベルでのひねりを出してくる。
トリビア』『あの映画』『超能力者』あたりがその典型的な事例である。
力があるが故に正統派の構成では飽きたらずに、ついつい目先の変わったものにチャレンジしてしまう。
結局それが元で低評価を受けることになってしまうわけである。
もう一つは取材面で“見える人の目線”で書いてしまうこと。
『悪霊』や『取材』のように見える人同士の話になってしまって、ほとんどの“見えない”読者が置いてけぼりを食らう作品もそれに入る。
だがそれ以上に気になるのは、同じ作者かと思うほど、怪異に関して粗い記述で終わっている作品が見られること。
『百物語その後』『誘い』『無事故祈願』『沈む』あたりがその典型である。
うがった見方であるが、作者自身が“見える”ために自明の理として飛ばしてしまった可能性もなきにしもあらずである。
“見えない”人間が怪異を書こうとすると、自分と同じレベルの人間に信じてもらうために必要以上に書き込んでしまう場合がある。
その逆に“見える”が故に「この程度のことは書かなくても」という心理が作用してディテールを略した可能性はある。
ともに作者自身の能力の高さがマイナス効果となったと思われる部分であるが、この部分が克服されない限り、傑作も生み出すが駄作もその分だけ量産されるという危険が大きいように思う。
あえて“真の怪物”になることを期待したい。