【−3】もう大丈夫

ウエットな内容を含んでいることは間違いないが、あまりにも紋切り型の表現に終始しており、正直“感動のお仕着せ”という風に感じてしまった。
特に夢に出てくる彼の言葉はまさにパーフェクトでダイレクトすぎて、少々出来すぎという印象が最後まで鼻につくほどつきまとった。
この印象が、ややもすれば弱くなりがちな“夢”ネタの怪異をさらに弱めてしまった。
夢とは思えないほどリアルな夢というのは誰もが体験したことがあるものだと思うし、その内容が死んだ彼氏のメッセージであれば、なおさら夢ではなく現実であるという感覚に体験者がなってしまうのはやむを得ないことだろう。
だが、この夢に彼氏が出てくるタイミングであるが、心理学を少々かじった者であれば、一種の“代償行為”の反映ではないかという疑念が出てくるほど非常に都合が良く、しかも体験者の願望を正当化させる方向へ持っていっている。
体験者が作為的に話をコントロールしているとは思わないが、客観的に見て“死んだ彼氏が夢に出てくる”という怪異の部分は心理学的な説明を付けることが可能であるが故に、そして怪異であるという決定的な物証が存在しない故に、超常現象ではないという判断を下した。
また彼の声がして事故を免れたという部分であるが、こちらについてはありがちとは言え、自分の意識以外の何かが作用した可能性は否定できないと思うので、むしろこちらが怪異の肝となるようにすべきだっただろう。
以上のような問題点を挙げたが、これらの多くは書き方次第で抑えることが出来たという意見である。
怪異については、上に提示したように声の方をメインとして、夢の部分をもっと圧縮した方が“怪談”としてはベターだったように思う。
また最後の現状の“のろけ”は断然カットすべき。
結局、体験者に対して好印象が持てなかった最大の原因はこの“のろけ”であり、この言葉がある限り、夢の部分がどうしても“御都合主義”優先の体験者の思い込みという印象が拭えなかった。
このあたりが改善されれば、たとえ客観的証拠がなくても、もう少し怪異が生きたのではないだろうか。
正直な感想としては、この話は“純然たる怪談”ではなく“一人の女性が負った心の傷を癒して立ち直った感動ストーリー”としてしか受け取れなかったという次第である。