【+3】お経

読経の入ったテープと父親の死の関連性も定かではなく、それどころかそのテープの存在すら事実だったかあやしく、下手をすると怪異とおぼしきものの全てが偶然の産物である可能性すらある。
しかし、のほほんとした怪異譚と想像させておきながら、いきなり急転直下、人の死を叩き込んでくるエンディングは衝撃的という言葉が似合っている。
“読経と死”というイメージとして因果関係がありそうな事柄を、ゴロンと事実だけを置きっぱなしで書いたところがこの作品の最も凄い部分であり、その微妙な一本の線を読者が勝手に想像してとんでもない結論に至ることを予想して作者が仕掛けている。
実際には読経のテープなどの怪異はなかったという指弾も可能であるが、“怪談”としては立派に成立しており、インパクトの面ではかなりのレベルであると言ってもいいだろう。
むしろテープの話は嘘であったが、それを言ったために父親が亡くなったと考える方が、もっと禍々しいものを感じてしまう。
とにかく単純な情報だけで読者の想像力を掻き立てることに成功しており、なかなか侮れない作品であると思う。