【+4】口移し

はっきり言って、ネタで完全に圧倒されてしまった。
どういう呪術であるかはわからないが、とにかく体験者の目の前で劇的に病気を治したという事実は揺るぎなく、その希少性だけで十分価値のある内容である。
特に秀逸なのは、呪術の儀式に関する所作がかなり具体的且つ正確に書かれている点である。
読む側としては、この情報だけでも結構満足できる内容であると言えるだろう。
ただ惜しむらくは、病気の子供の皮膚がどのような状況で治っていったのか、具体的な描写が非常に少ないという点である。
幼い時だから記憶が明瞭ではないにせよ、その部分が少しでも多く書かれていたならば、より一層呪術の凄まじい力が読者にもダイレクトに伝わったのではないかという気もする(タクシーの運転手にアポ無しで聞いた話だから、ディテールまで聞き取るのは結構難しいという条件もあるとは思うが)。
描写部分がもう少しあればパーフェクトな怪談であっただけに、かえすがえす残念である。
しかしながら、呪術系怪談としては傑作の部類であることは間違いないところである。