【+1】痣

水場の怪異で、何ものかに引きずり込まれそうになって痣が出来るという話は定番の一つといって間違いないところであるが、腰にしがみつかれるようにして痣が出来るという話は非常に希少性が高い。
ただ、腰に出来た痣ということであれば、水着に覆われた部分かそうでないのかの記述は是非とも欲しかったところである。
もし水着の部分に痣が出来ていれば、1年間も消えなかったという内容と共に、この痣をつけたものの執念をより一層際立たせることが出来たように思う。
また文章全体の印象であるが、メリハリというものがあまり感じられなかった。
その原因と思うのは、ストーリーの展開がメインの怪異に絞り込めていないように見える点である。
上記のように怪異に関する重要な情報が取り込めていない部分がある半面、怪異と直接関係のない情報が分散して書かれている。
例えば、“自動車のディーラー”は結局怪異とは全く関係ない情報だったが、冒頭にあったため最後まで何か妙な引っ掛かりを持ってしまったし、痣を見た母親の“お仏壇にちゃんとお線香をあげてないからじゃない”という発言も思わせぶりな内容だけで終わってしまっている。
要するに、作品全体に散りばめられた情報が全て同じ方向のベクトルでないために、肝である怪異に集中できないのである(タイトルが“痣”だったので、破綻するようなことはさすがになかったが)。
これだけの短さであちこちと余計な情報が出てくるのは、やはり厳しいものを感じざるを得なかったところである。