【+1】自己暗示

突拍子もない不条理怪談であり、体験者の反応も併せて巧くさばいた書き方であると思う。
ただ難点を挙げるならば、体験者が完全にしらふの状態で体験しているのかという疑念が残る(ほろ酔い加減で帰ってきて、再び家で缶ビールをもう1本という状況とも取れるため)。
こういう疑念が出てくるのも“もう酔っているのかと手元のビールを見た”という文言があるためである。
もし酔っていてこんなものを見ていたら、完全に妄想の世界へ一直線である。
一般的に幻覚症状が出やすいと目されている“アルコール・過労”に関する記述には、怪異の信憑性をぶち壊してしまう危険性があるので、細心の注意が必要だということである。
この作品の場合、やはり酔っていないことを最初に書いておいた方が無難だったように思う。
これ以外はコンパクトにまとまっており、怪異の質に見合った書きぶりで好感が持てた。
しかしながら、内容が単純な目撃談であり、単独の作品としては可もなく不可もなくというレベルで落ち着いてしまった。
まとまった作品集の中でこそ活きてくる作品という印象である。