【0】カマキリ

車中で起こった怪異については希少性も高いと思うし、非常にインパクトの強い内容であるという印象である。
ところが問題は、この怪異に対して理由付けをしてしまったために、微妙に整合性を失ってしまうという結果を招いてしまった点である。
作品を読むと、この怪異が一回性のものであった(つまり、この車中で起こった以外には再び発生しなかった)と判断できるのであるが、“肩にカマキリが乗っている”ということであれば長期間取り憑かれているわけなので、他にも類似の怪異が起こっていなければ理屈が合わなくなる。
また“衣服が切り裂かれる=カマキリ”という発想がいかにも陳腐であり、却って怪異の持つ特殊性を矮小化させてしまったように感じる。
さらにこのカマキリの話の中で唐突に“岐阜”という地名が入ってきたり、また時間的な経過が判然としないため、車中の怪異と実際に関連付けていいものかという疑念が湧いてくる。
結局、カマキリによって怪異に整合性をつけようという目論見は、逆に怪異の不可思議さを殺してしまい、滑稽な印象を与えてしまったというのが個人的意見である。
むしろ車中で起こった怪異だけをエピソードとして書いた方が、怪異そのものの異常性によって良い意味で不可解さが出てきたように思う。
カマキリの霊自体はそれなりに興味のあるところであるが、この両者をくっつけてしまったことが最大の失敗であったと言うべきだろう。
“カマイタチ”のイメージと“カマキリ”とでは、やはりギャップがありすぎるというのが正直なところである。