【+3】線路

具体的な時期や場所が記述されており、実話を超えた“実録”怪談としての味わいが強い。
また文体が徹底した論文的な書き言葉でまとめられており、実録的な印象をさらに強固なものに仕上げていると言えるだろう。
意図的というよりもそのような文章を書き慣れていると言った方がいいかもしれないし、実際クライマックスに至る緊迫感のある筆致は付け焼き刃では書けないレベルであると思った。
怪異の内容に関しても、戦争の記憶が生々しい時代に起きた戦争絡みのネタであり、まさに文体のがっしりとした印象がそのままネタの雰囲気を伝えていると言えるだろう。
作者がどこまで意図したかわからないが、怪異の内容に即した書き方であり、完成された作品であると感じた。
ただ残念ながら、怪異が音だけであり、際立ったインパクトを与えるような内容でなかったために、秀作とまで評することは敢えて避けた。
時代は終戦直後であるが、当然、戦時の怪談と言ってよい内容であると思うし、前年大会でも評した通り、この時代の怪異を語れる世代の年齢を考えると、もう期間は残り少ないのが実状であり、希少性については抜群であると言って間違いないところである。
個人的には非常に買いたい作品であるが、逆にそういう作品ほど評点を厳しく抑えたいというポリシーがあるので、+3点という評価でおさめさせていただいた、大変申し訳ない。