【0】訪問

正統派怪談と言っていい作品であるが、一番大事な部分での誘導が弱かった。
この作品の怪異の肝はインターフォン越しに聞こえてきた声であることは間違いないのであるが、それに対する伏線の作り込みが足りず、また体験者の反応が鈍いために、恐怖感にまで持ち込めなかったとしか言いようがない。
亡くなった人物のキャラクターが意地悪な性格であると明確に提示しながら、死んだ後に“来て…”と哀願する意外な展開を、単に体験者を無理矢理葬式に駆り立てるオチだけに出してきたという解釈で終わらせるのは勿体ない気がする。
おそらく急性の病の中で彼女の性格を一変させるような何かがあったことを推察させることで、怪談特有の哀調が生まれてきたのではないだろうか。
例えば、会社で訃報を聞いた場面で、相当異常な死に方だったと思わせるような印象を与えることは可能ではなかっただろうか(3週間ほどで亡くなっているだからよほど突発的な病気だったと思うし、示唆は可能だっただろう)。
そのような流れを作っていけば、作品全体にある種の緊張感を生まれ、恐怖感を伴った違った印象を与えることが出来たように思う。
また声の主を、少なくとも中年女性と限定する必要があったようにも思う(展開から考えれば、声の主=亡くなった女性と体験者が感じていることは明白である)。
インターフォンの間の抜けた音(これ自体が悪いという気はしないのであるが)と相まって、やや失笑気味の終わり方になってしまったのは、怪異の本質から見るとかなり乖離した結末のように感じてしまう。