【0】異形

見たこともないものを目撃したという作品の場合、その肝は“目撃したものの描写”に尽きるだろう。
その部分を如何に端折らずに書けるか、如何に読者のイメージを想起させるかに全てがかかっていると言ってもおかしくない。
その観点から見ると、この作品は不完全と言わざるを得ない。
最も決定的だったのが“カマキリとムカデの合いの子の様な姿”という表記。
これが実に分かったようで分からない表現なのである。
針金で出来たような化け物のどのパーツがカマキリでムカデなのかがさっぱり理解出来ないため、イメージしようにも何通りもの組み合わせパターンができあがってしまう結果となってしまった。
このように複数の形が想像出来る状態は、創作であれば“読者次第”ということで許容範囲であるかもしれないが(それでもかなりアンフェアな言い訳に聞こえるが)、“あったること”としての実話ではあってはならないことである。
見たものを見たままに表現し、読者にある程度共有出来る固定イメージを提供出来ないとなれば、作品としては不成功と言われても致し方ないだろう。
付け加えるならば、体験者の認識の流れについても、最初に“昆虫”として色々と形容しているにもかかわらず、中盤で“粗大ゴミ”と形容し直している点が非常に不自然である(はっきり言えば、意識する順番が完全に逆である)。
この部分も説明描写の適正な流れに反するものとしか言いようがなく、下手をすれば読者に不信感を与える危険性もあると言えるだろう。
希少性に比べてそれを十分描写し切れていないという感が強いので、プラス評価までは至らずということで。