【+2】いいにおいの

怪異としては非常に小粒感が否めないレベルなのであるが(弟が現実に戻った時と私の声掛けとのタイムラグが曖昧なので、生身の人間の仕業という疑念も生じるレベル)、とにかく全体を通しての情緒が怪異であることを補強しているとしか言いようがない。
まさに懐古趣味的な流れを汲んだ“怪談”情趣を醸し出すことに成功した、作者の書きぶりの賜物であるだろう。
当然“実話怪談”故に勝手に小道具を変更させるわけにはいかないので、いくら懐古的な雰囲気を作ろうにもなかなか難しいのであるが、この作品の場合、置屋などの与えられた条件を最大限に生かして“怪異の空間=異界”を創出できているという印象が強い。
また末尾の部分も若干冗長という気もするが、ふにゃふにゃとした終わり方がいかにも情緒優先という感もあり、これはこれで許容出来る内容であると思う。
それだけに作者の技巧は十分評価出来るだろう。
ただ欲を言えば、京都らしさを演出するために“地の文”ではなく“会話文”を多用した方が良かったのではないかとも思う。
京都系の関西弁の持つまったりと軟らかい語尾や特有の表現などが入ったりすれば、なおよく情緒的な輝きを増したのではないだろうか(もし作者が“ネイティヴ関西人”でなければ、敢えて挑戦しなくてもよいと思うが)。
“実話”ではあるものの、時にはこのような情緒的で感覚的な雰囲気を漂わせる作品があっても良いと思う。
それ故に、本来であれば厳しく精査するべき怪異の客観性については多少疑念が残る部分はあるが、全く不問ということである。