【+1】置き土産

夕方に道の真ん中に立つ霊、夜中に繰り返されるノック、そして霊の出自と、それなりに面白いネタの展開がありそうなのであるが、印象が薄い。
はっきり言えば、霊の容姿に関する表記以外にほとんど描写が使われていないために、説明一本槍で単調なテンポになってしまっているのが、一番の原因であると思う。
全てが説明調になってしまうと、特に登場人物の言動について言えば、どうしてもダイナミックな表情がなくなり、まさに“型通り”の事柄に一般化されてしまい、動きや喋りの個性が薄まって平板になってしまう。
また情景も説明ばかりでは、動画ではなく静止画の連続という印象、つまりストーリーが活写されずに奥行きのなさを感じてしまう。
この作品の場合、一番最初の霊の目撃の部分のみ描写を交えた内容になっているだけに、後の展開が通り一遍に流しているという悪い印象に見えてしまっている。
たとえノックだけの怪異であったとしても、目撃した霊のインパクトとリンクさせるなり、また体験者の動きを書き足すことで臨場感を与えるなり、とにかくもっと読者に迫ってくるものを作ることができたのではないだろうか。
またこの中盤の怪異が丁寧でない分、母親の話す霊の出自(このように霊の生前の身元がある程度判明するケースは貴重)がいかにも話の解説めいて、ストーリーとして面白味に欠けてしまったと思う。
“怪談”というストーリーである以上、もっと読者を引っ張り込む文章の魅力がないといけないということである。