【+1】対決

学校のトイレでの体験談ということであまり期待せず読み出したのだが、肝となる怪異はなかなか面白いものがあると思った。
特に“トイレ”という場所が逆の意味で意外性をもたらしていると言っていいだろう(これが山中や寺社の周辺ということであれば、何となくお決まりのパターンという印象で終わっていたと思う)。
おそらく数秒、長くても30秒もないだろう目撃時間のために、怪異の部分の描写にやや粗さが見えるが、そこだけ取り出せばまずまずの内容であると感じた。
しかしながら、問題はその前の部分にある体験者の心理描写である。
体験者が恐怖感に襲われていることは分かるのだが、それの表記がほとんど全て“こわい”という単純な一言だけで片づけられてしまっている。
そのために非常に平板な印象が強くなってしまい、後半部分の怪異の描写にも“何か書き足りないのではないか”という疑念を生じさせているようにも見える。
実際、心理描写の手法として、“比喩”を多用してなぞられるやり方があるし、体験者の行動を感情の発露とみなして的確に描写するやり方もある(怪異の描写部分から推測すると、この作者であれば可能な技巧レベルだろう)。
肝の部分を徹底して書くことは重要であると思うし、そこがなくては高い評価は得られない。
だが、その周辺部分にまで神経を行き渡らせないと、作品の構成に関して良い印象が持たれないということである。
冒頭から読者を引きずり込むような書きぶりが、怪談作品としては求められるわけである。