【+1】キューピット様

こっくりさん”ネタとしては極上のレベルの怪異であるだろう。
だが、それだけのネタでありながら、文章が完全にその持ち味を殺してしまっている。
詰まるところ、怪異の最大の肝は、キューピット様をやっていてパニックになる部分ではなく(これは凡百のネタで語り尽くされたレベルの内容である)、朝になって部屋の物理的な変化(しかも常識的には考えられないような力が加えられている)に気付かされるところであると言える。
ところがそこに辿り着くまでの文章の長さが尋常ではない。
長くてダレるというよりも、途中で投げてしまおうかと思ったほどである。
辛うじて展開に緊迫感があるために何とか読み進めることは出来たが、作者自身がどこに力点を置くのかを考慮せず、ただただ自分の文に酔って書き散らしているいるという印象しか残らなかった。
最後のオチの部分に必要な事柄以外を削り(おそらく3分の2程度は削れるはずだ)、一気に最後まで読ませるという構成にすれば、展開の持つ緊迫感がもっと活きたように感じる。
個人的には、この作者はどうもホラー系の特徴を持ち込もうとしているのではないかと感じているが、まだまだ人物の作り込みが弱いように思うし、まだ“あったること”の報告という実話怪談特有の個性と上手く絡まっていないように見える。
冒頭の“語りかけ文体”については、おおむねの評価が定まったように思うが(結論的には「やるべきではない」ということに尽きる)、後半部分の書きぶりは人物描写で修練が出来れば面白いものになるように感じた。
やはり、怪異の本質を見極めてそこに全てが収斂されていくような構成を作ることが肝要だろう。