【+3】世話好き

こぢんまりとしているが、作者の怪異に対する見方が細部にまで行き届いている佳作であると思う。
独り住まいで霊に触られる(しかも病気で伏せっている時、風呂場で頭を洗っている時など、最も無防備状態である時の例示ばかりである)というある意味とんでもない怪異にもかかわらず、読者に対して恐怖感を抱かせるような表現を敢えて避けている感じがする。
特に現れる“手”に関する具体的な描写や説明をほとんどしていない点は、情報不足というよりも、リアルな生々しさを出さないことで薄気味悪い印象を殺す効果を狙ったのではないかと思う(実話怪談の場合、リアルな描写は怪異の信憑性の獲得に貢献していると同時に、容赦ない具体性で恐怖感を与える効果も担っていると言える)。
そして体験者が恐怖を感じないという主観を披露しているが、それに対する客観的な証拠として、オチの部分に“体験者と結婚する男性にだけはちょっかいを出さない”ことを提示することできれいにまとめ上げている。
書きようによっては悪意のある霊とみなすことも出来るが、それを最後の部分で見事に否定することに成功しており、その部分で作者の意図(しかも客観的に見てもほぼ正解だろうという印象を与えるもの)が明確に出てきていると感じた。
本来であれば、石が飛んでくるという希少なアポーツ現象まで生じているので、その詳細を書いて欲しいという要望があるのは確かなのであるが、作者が怪異の本質を見抜きそれに見合った構成で読者を巧みにリードすることが出来ているということで、好印象の作品という判断をさせていただいた。
いわゆる“癒し系”怪談としては、良く出来ているという印象である。