【−1】かぶりもの

色々と情報が書き込まれているのであるが、肝心の“新聞紙のあやかし”に関する描写はほとんど何もない状態である。
“誰かが新聞紙をかぶって深夜の歩道を歩いている”と書かれているが、実際の背丈などが書かれていないために、地面からどのくらいの高さでひょこひょこ動いていたかが全然分からない。
さらにそれを混乱させるかのように“雪ん子”という喩えを出してきている。
しかも体験者の目の前を通り過ぎているにもかかわらず、新聞紙の状態(さすがに記事の内容やどこの新聞社のものかまで確認せよとは言わないが)が全く書かれていない。
結局、この作品の場合、これだけ至近距離から目撃している怪異でありながら、それに関する情報が“新聞紙だけが移動している”だけで終わってしまっているのである。
これではせっかくの怪異体験が具体的な説明や描写を加えられずに、曖昧なまま片づけられてしまっていると言えるだろう。
やはり詳細なディテールがあってこそ怪異のリアルさは浮き上がってくると思うし、信憑性も増してくるものである。
残念ながら、この作品は目撃談として最も重要な部分で問題が多すぎると言えるため(とりわけあやかしとかなり接近していると予測されるので、期待は大きかった)、厳しく評価させていただいた。