【+4】餓鬼

今大会は戦中・戦後時代の怪談というべきものがわりと多く登場しているが、これもその中の佳作である。
前半部分にあるその当時の家族の様子は記録としても貴重なものであると思うし、また怪異の肝部分と巧くリンクされていて、無駄のない仕掛けであるという印象である。
また怪異そのものについても、最初は不審なもの・恐怖を与えるものという見せ方をしておいて、最後に“泣いていたんだって”という一文を提示することによって一気に雰囲気を変えることに成功している。
読んでいて思わずハッとさせられたし、読後の印象が非常にウエットなものになった。
気になったのは、体験者の現在である古書店についての表記をすべきだったのかという点である。
作者としては、一気に戦後の状況に読者を引っ張らずに、ある種のフィルターとして穏やかで物静かな印象を作り出そうとして提示したのではないかと思う(あるいは末尾のランディングに効果的と見て前置きしたのか)。
だが、個人的には本題の書きぶりだけで十分だったという意見であり、敢えてワンクッション置く必要性はあまり感じなかった。
全体としては非常に巧みに構成された作品であると思うし、文章そのものも落ち着きぶりが怪異の本質とよく合っていたという印象である。