【+2】トラウマ

悪夢を見て目覚めた後、それと直結するような異変が隣で寝ている肉親に現れるというパターンである。
一歩間違うと入れ子の“夢オチ”怪談みたいになるのだが、この作品の場合“朝まで泣いた”という表記によって体験者が見た祖父の異変が夢ではないことを強調している(もしここが“気を失って、起きると朝だった”のような表記であれば、少々あやしい展開となっていただろう)。
また全体の展開として、短い文による描写で畳みかけるように書いているところがテンポの良さを生み出している。
しかしこの短い描写文の連続であるために、詳細な具象性に欠けると思われる部分が生じているのも事実である。
例えば、祖父から出てきた三つの白い塊に関する描写は、祖父のどこから現れ、そしてどのような様子で天井へ昇って消えていったのか、もう少し突っ込んだ書き方をしないとインパクトが弱いように思う。
ややもすれば短文の連続で、緩急の流れが単調になって、肝と言える部分が作り切れていないとも言える(「誰にも言うな」の前後を改行させるという、見映えで何とか肝を作っているとも言えるが)。
また、情景描写に対して体験者の心理描写が“怖い”の連発であり、少々子供じみた展開のように見えた。
ただ全体を通してみると、作者が怪異をどのように見せるかの工夫が随所に見られ、ある程度それが効果を発揮しているという印象であるので(短い描写文の連続は弱点もあるが、怪談語りとして総じて好意的な感想である)、それなりの評価をさせていただきたい。