【0】内にて備える

“岡崎さん”と“兄の首の傷”から、以前の投稿作『敵味方関係』のサイドストーリーとみなして良いだろう。
その想定を加味して評すると、それなりに怪異の面白さというものが湧いてくる。
しかし、単独の作品として読んだ場合、守護霊(これも父親の一言だけで決め付けられている。霊能者の言だからやむを得ないが、それでも少々引っ掛かる場所)と首の傷との関連性が明瞭ではなく、お互いが補完し合うような書かれ方になっていない。
それ故に“見える”人特有の、「自明の理だから書かない」という風の横着な書きぶりに見えてしまうわけである。
また同時に、霊的なものと関わりを持つ家系であるにもかかわらず、自分の守護霊の存在が分からないとか、金縛りと鎧武者の霊体験で“恐怖した”という、少々無邪気すぎるのではないかという内容になっている。
霊能者(またはその家系の者)を扱う内容の場合、それなりにレベルの高いものを期待するのが人情である。
だがこの作品では期待はずれな部分が大きく、その代わり理由が知りたい解釈部分の説明が足りないという状態に陥ってしまっている。
兄の体験そのものについては結構詳細部分まで書かれており、読ませるという印象であるが、それ以外の部分はかなり詰めが甘いと言わざるを得ない。
ちなみに評点には加えていないが、若干の疑念。
“実家のあるその島は昔、平氏に追われた源氏の一部が逃げ込んだ場所であるらしく、島の住民の大半が源氏の血を引いているそうだ”とあるが、一般的には“平家の落ち武者が逃げ込んで出来た集落”の方がポピュラーであり、最終勝利者である源氏の一族が“逃げ込んだ”というのは違和感が残るのであるが、果たしてこれはどうなのであろうか(調べればそういう事例があるのかもしれないが)。