【０】窓の外から

読みやすい描写という点だけ言うならば、非常に良くできた作品である。
怪談語りの筆法としては、ある意味、王道の一つであると言ってもいいだろう。
それだけ優れた描写なのであるが、如何せん、ネタがあまりにも平凡すぎるのである。
この程度の体験を単なる目撃談として提示した場合、文章でカバーするにも限界があると思う。
読みながら、非常に勿体ないという印象だけが強く残ってしまった。
さらに、表記の点で重大な問題が生じている。
冒頭部分の“神職の母”であるが、これが作品全体に悪い影響を与えてしまっている。
結局、母親は最後の最後で登場し、しかも素っ気ない一言を浴びせるだけで終わってしまっている。
まず母親の職業をいちいち書く必要がないのである。
そして最もまずいのは、書かなくてもよい職業がよりによって“神職”なのである。
“神職”は実際には霊能者とは一線を画する身分なのであるが、やはりこの言葉が冒頭に提示されれば、読者のほとんどはさまざまな点で期待を込めて読むことになる。
ところが、怪異のレベルがあまりにも小粒、さらに追い打ちを掛けるように母親はまさに“冷や水を浴びせる”がごとき発言だけの登場である。
この構成は完全なマイナスダメージであり、厳しいが大きな減点となるところである。
文章レベルは高いが、怪談のセンスはまだ発展途上という感じなのかもしれない。