【+2】カラオケ

非常に希少性の高い怪異である。
霊体はある特定の思念に支配されているが故に、固着した思考しかできないというのが通説である。
だから生身の人間の言動に対して、行動なり表情なりといった単純なリアクションを取ることはあっても、まず“言葉”そのものを喋ることによって何かを表現するというケースは稀である。
この作品で放たれた“だっせぇ、何今の男。きゃはははは”という霊の言葉は、一般的に思っている以上に貴重であり、インパクトがある(脳内にテレパシーのようなもので響いてきたものではなく、二人の人間が同時に聞いたという状況なので、物理現象としてはっきりと霊がリアクションの声を発した点が希少性を上げている)。
怪異のネタとしては、この現象だけで十分であると言ってもいいだろう。
ただしそのほかのネタについては、どうしても凡百の域を超え出ないものばかりである。
リアクションの声という希少な体験があるものの、それに至るまでの展開はほとんどの読者がおおよそ見当をつけてくるだろうものでしかないし、予定調和的な内容に終始している。
怪異のもう一つのポイントである“すりガラスに映った姿”の詳細な情報が提示されていたならば、怪異はもう少し薄気味悪い内容になって、凄味のある怪談話になったのではないだろうか。
ポピュラーなシチュエーションであるだけに、類話との相違点がもっと欲しかったところである。