【0】泊まれない…

オノマトペ”はわずかな言葉によって読者に対して最大公約数的な情景を想起させることができる。
しかし肝の部分でそれを多用すると、逆に具象性を失って中途半端に分かった状況に陥ってしまう。
この作品は、そのオノマトペの扱いで失敗したパターンと言えるだろう。
“手首がびゅんびゅん”という表現であるが、勢いよく手首がエレベーターから飛び出してきている様子は理解できるが、その数や大きさそしてその場の雰囲気については、その一語だけでは読みとることはできない。
その状況が完全に把握できないために、結局怪異の具体性を持たない作品という評価しか与えることができなくなる。
どこまで詳細な状況を描写するのかは作者の力量であるが、おそらく作者としては“投げっぱなし怪談”であることを重視して言葉を削ったためにオノマトペを用いたのだろうと推測する。
短さという点ではこれで成功したが、その代わり怪異のリアルさを失い、一歩間違えば信憑性にすら傷を付けてしまった格好となってしまった。
もう少し具象性のある単語を組み合わせて文を作った方が、迫力のある怪異として提示できたようにも思う。
書き方によっては壮絶な場面(恐怖と笑いがない交ぜになったような)として描けたように感じるので、惜しいような気もする。