【0】雨が降るとは限らない

“実話怪談”とは、体験者が実在するという“必要条件”と共に、整合性を維持したリアルであるという“十分条件”がなければ成立しないという私見を持っている。
いくら体験者が存在する話であっても、読者に対してリアルな印象を与えることができなければただの与太話で終わってしまうのが“実話”の妙である。
突き詰めれば、「描写が足りない」とか「情報不足だ」といってこき下ろしているのも、下手をすれば誰も信用しないかもしれない“事実”に現実感を与えるための努力をして欲しいということに尽きるわけである。
さて、この作品の場合、リアルさの点でギリギリ“実話怪談”の体をなしていると言えるだろう。
いわゆる“あったること”の記録の部分を極限まで削り取り、幻想的な印象を与えようとしており、その点ではリアルさとは対極の世界を作り出すことを主眼に置いている。
それ故に、一歩間違えばただの“夢オチ”とも取れるような微妙な印象もあるのは事実である。
しかしながら実体験としての怪異が正確に書かれている、時系列的な展開に整合性があるという2つのポイントから、辛うじて“実話”であると認めても良いかと思う。
仮にこの書き方で“不条理怪談”が提示されていたならば、おそらくその破綻ぶりから“創作”と決め付けられていただろう。
タイトルから見てもこの作者は“文芸怪談”を意識して作ったと推測するが、果たしてそれが成功したかと問われると、あまり芳しい返答は出来ないというところである。
やはり実話には実話の領域があるということに、個人的には落ち着くわけである。
ただマイナス評価を出すまでの不具合はないという見解である。