【+3】一線

神様が御利益を授けてくれるのは、仏様の慈悲の心のようなものではなく、身も蓋もない言い方をすると“見返り”を期待しているからである。
神と認めて祀ってくれる代わりに祀ってくれた人に対してご利益を与え、ますます丁重にそして末永く祀ってくれるようにさせるわけである(要するに“ギブアンドテイク”の原理である)。
ところが何かの拍子でそれを人間側がストップさせてしまうと、神様が契約反故を理由に強烈なしっぺ返しをする。
だがそれと同時に、自分を再度祀ってくれる相手を探してさまようことにもなる(いわゆる“狐憑き”などはこういう神様のデモンストレーションだと思ってもいいかもしれない)。
この作品に書かれている体験は間違いなく、うち捨てられてしまった神様が新しい祀り手を探し、たまたまそこへ侵入してきた体験者を呼び止めたという解釈で成り立つものであるだろう。
その点を考慮すると、この作品は非常に希少価値が高く、埋もれさせるには惜しい内容である。
文章も軽快であり、すんなりと読めるレベルでそれなりに洗練されているという印象である。
また“心霊スポットを開拓”するほどの猛者が“記憶をなくす”ような体験という表記上の展開は、なかなか面白いと思った。
作品全体から見て、十分評価できる佳作であると思う。