【−1】突き飛ぶ

恐ろしくドタバタした調子が妙なリアリティーを生み出していることは確かである。
特に体験者カップルのハイテンションな会話を読んでいると、神社に怒鳴り込むように押し入ってくるという少々非常識なリアクションもありかなという気にもなる。
だが、肝心の怪異が非常に微妙なレベルなのである。
こけしの背中に木の御札が上下逆さに釘付けされているというアイテムであるが、気味が悪いといえばそうであるが、本物の呪いが掛けられるものであるかと問われると、おそらく「否」と言うべきものだろう。
負の感情の発露であることは間違いないと思うのであるが、それだけ凄まじい念が籠もっているとは思えないし(本当に念が籠もっていたらこの程度では済まないだろう)、悪質であるが稚拙というイメージしか出てこない。
結局それを“所持”していたことによる怪異も、何気なく神社へ行き、そして唐突に突き飛ばされるという些細な内容であり、彼女の生理痛も取って付けたような印象の方が強いわけである。
そのような弱い怪異の紹介の中で、際立ってインパクトがあったのが、この体験者カップルのブッ飛んだ言動なのである。
特に神社から帰ってきた後の二人の痴話喧嘩などは、果たして怪談話のエピソードとして挿入すべきなのかどうか、再考すべき部分であったと思う。
最終的な印象としては、怪異にまつわることは確かだが、主題は二人ののろけ話だったというところで落ち着いてしまった。
こういう破格の書き方も当然「あり」だと思うが、主題が逸れてしまった以上はやはりマイナス評価ということになるだろう。