【−3】ドカドカガタガタ

誰もいないと思っている場所から物音が聞こえてくれば、恐怖を覚えることは誰にでもあることだと思う。
だが、それがいつでも超常的な怪異であると思っている人はおそらく殆どいないだろう。
結局、この作品に書かれている情報では、上に書いた範囲の印象で収まってしまったということである。
要するに、風ではない何かのはずみで物が落ち、連鎖的に他の用具類まで倒れたりして床に散乱したのではないかという“常識的”な解釈が十分可能であるということである。
というより、体験者自身が見た光景がほとんど読者に伝わっておらず、そのために読者がその異常性に気付かずに、常識の範囲内での出来事として簡単に収めてしまったということになっていると想像できる。
ポイントになりそうな現象は2つある。
1つは“物音の長さ”であり、落下によって物が散乱する場合と“何もの”かが暴れて物が散乱する場合とでは、物音の長さは若干変化するはずである。
もう1点は“トイレットペーパーホルダー”の構造が書かれていない部分である。
出だしの段階で“物音の長さ”が書かれず、しかも体験者が“風が原因”という軽い感じで行動しているために、落下によって簡単に外れてしまうタイプをかなりの読者がイメージしたのではないかと思う。
例えばホルダーが“下から力を加えないと外れない”タイプのものであれば、怪異の度合いは一気に変わったに違いない。
体験者が現象を怪異と認識した決定的根拠が書かれていないために(窓が閉まっていて風が入り込まなかっただけでは、まだ怪異とは言い難いわけである)、常識的な解釈で落ち着いて醒めてしまったというところである。
厳しい言い方になるが、怪異を怪異であると納得させられなかった作者の力量不足だろう。