【0】きっかけ(2)

怪異そのものは非常に恐怖感をもたらすものであるという印象なのであるが、なぜかその内容に比して怖さを感じなかった。
そのように感じるのは、恐怖という“感情”に対して説明という“理性”が常にピッタリと張り付いているように見えるせいだと思う。
例えば“一斉に電話が鳴った”場面であるが、その次の文でいきなり会社の電話システムについての説明が始まっており、電話の恐怖がいっぺんに吹き飛ばされてしまっている。
また“登録名が自殺した子”であることが判った瞬間も、“寒気がした”という端的で且つ的確な一言感想で終わってしまっており、無駄がない分だけ嫌な雰囲気が削れてしまっている。
このような書き方では体験者の恐怖感が非常に空虚なもののように見えてしまい、作品の展開に没入できなかったというのが正直なところである。
そしてその出来事以降の怪異体験が、体験者の証言という形式でサラッと書かれて終わってしまっており、何か恐怖感が不発のままで話が終了してしまったという印象が強くなった。
突き詰めれば、怪異の描写が少なく、特に冒頭から始まる怪異に至るまでの経緯の部分と比べて濃度が薄い書き方に見てしまったことが、何か欠けてしまっているように感じるところなのかもしれない。
いくら恐怖感を煽れる怪異でも、ボリュームがなければ効果が出ないということである。