【+2】何故

一種の“不条理怪談”なのであるが、その中心に据え置かれている不条理は怪異ではなく“人間の心理”であると言っていいと思う。
怪異体験を繰り返すことでストレスが溜まってある日突然恐怖感がぶち切れたという感じではないと思うし、押し入れの怪異が他の怪異と比べて格段に恐ろしいと感じたというわけでもないだろう。
まさに“ツボにはまった”恐怖としか言いようがないものが背中を駆け抜けてしまったというのが、体験者の本音なのではないだろうか。
その微妙な心理に何とも言えない不条理感を覚え、その部分を“闇”と捉えることによって成立している“怪談”であるという認識である。
ある奇妙な感覚に主人公が落とし込まれていく状況を描くことで成立するストーリーは“創作怪談”では時折見かけることがあるが、“実話怪談”ではかなり珍しい作品であると思う。
怪異であるが、これは明らかにイメージが作りきれないままの描写という印象である。
おそらく押し入れ全体が空虚な闇に包まれ、その波間に漂うように頭が流れていっているものと想像する。
具体的に言えば、星も月も出ていない大海原にプカプカと浮かぶ物体という感じなのだろうか。
たとえ体験者の心理がメインの主題であったとしても、やはり実話怪談である以上、怪異の描写は正確且つ克明であるべきだろう。
ただ着眼点の面白さを評価して、高めの点数をつけさせていただいた。