【−1】びゅん

不思議なものの目撃談というものは実際このぐらいあっさりとした内容であると思うので、作品そのものはそれなりにまとまっているだろう。
ただその中で減点にした理由であるが、“びゅん”という表記が全てである。
体験者は、このあやかしが“5センチほどの大きさで半透明のもの”であると確認している。
しかも“ゴキブリやネズミでもない”と断定しているので、間違いなくその何かをある程度観察できているはずなのである。
ところがそれが移動している部分の表記が“びゅん”だけである。
容姿に関する情報と比べると明らかに不足していると言わざるを得ないし、高速で見えなかったのかというとそんなことは全くないほどしっかりと観察している。
感覚的な言葉で速さを出そうという試みだと推察するし、表記方法の上でも巧く書いていると感じる。
しかしその一語だけで速さを表そうとしたところに無理があると思うのである。
もう一言二言何か速さに関係づけられた文言が書かれてあれば、しっかりとした目撃談であると評価できるし、よくまとめられた作品であると感じることができたであろう。
我々の想像を絶するものであるから“あやかし”なのであり、その理解の範疇を超える存在を簡単な表記だけで描写することは至難の業であると思うし、それ故にある意味“言を尽くす”作業が必要だと思うのである。