【0】ばたばた

非常に緊迫感のある展開であると思うと同時に、その緊迫感の原因があやかしとの遭遇に怯える体験者の必死さにあるために、怪異そのものの強烈さよりもあやかしを見まいとして行動する体験者の方に焦点が当たりすぎた感が強い。
体験者が恐怖を感じ、そしてそれを回避するための涙ぐましい努力の方にばかり興味が集中してしまい、結局あやかしを表現するという主要な目的の方が脇に追いやられてしまった、あるいは影が薄くなってしまったように見えてならないのである。
さらに言うと、隣の部屋にいたあやかしが体験者の行動に反応して移動してきたと解釈出来る内容なのであるが、そのあやかしが部屋の外を出て廊下を走っている場面の表記がなぜか不自然なまでに長く感じるのである(また建物の構造がわからないので、内廊下なのか外廊下なのかもはっきりせず、あやかしが走り込んでくるイメージがかなり曖昧になっている)。
この曖昧さに比べると、体験者の明かりをつける時の様子を表した描写などは手に取るようにイメージ出来てしまうために、加えてその部分の方が物語の最後半部分、即ちクライマックスとも言える場所に置かれてしまっているために、結局印象としては体験者の行動を表す方が主たるものに映ってしまうのである。
描写表記の疎密さによって書き手が着眼点のポイントを読者に示すことが出来るわけであり、この作品の場合、そのポイントが怪談話としては不自然なところにあるように見えてしまうために、評価を上げることが出来なかった次第である。
最後の余韻を残す締めくくり方など良い味を出している部分もあるので、最終的には可もなく不可もなくというあたりの評点となった。